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珠城りょう、夢を追い続けた宝塚に別れ! 宝塚歌劇月組公演『桜嵐記』『Dream Chaser』千秋楽レポート vol,2

華やかなショー『Dream Chaser』のフィナーレに続いて千秋楽のセレモニーへ。

まず珠城りょうの経歴が紹介され、この人が下級生時代から如何に大きな役柄に挑み続けてきたかが改めて思い返される。だからこそはじまったサヨナラショーは、トップスター時代にほぼ限定されていたが、それでもこれだけバラエティーに富んだ楽曲が集まるのかと感心するばかり。

幕明けはこれしかないだろうというフレンチミュージカル『アーサー王伝説』の「アーサー王讃歌」。珠城時代のはじまりに合わせて書き下ろされた楽曲で、新たな王の誕生が蘇る。『カンパニー ─努力、情熱、そして仲間たち─』の「カンパニー」『グランドホテル』の「Roses At The Station」と珠城のソロが続いたあとは、『カルーセル輪舞曲』の同名主題歌が香咲蘭、楓ゆき、桜奈あい、颯希有翔、蒼真せれん、夏風季々、摩耶裕の退団者7名によって歌い踊られる。

もう一人の同時退団者トップ娘役の美園さくらが『I AM FROM AUSTRIA─故郷は甘き調べ─』の「BLOND」のソロで銀橋を渡ると、本舞台は珠城を中心とした『エリザベート』の「闇が広がる」フィナーレナンバーの男役群舞へ。美園のソロと共にもっと見たい、聞きたいと思う展開だったが、そこから珠城と美園で『夢現無双』から「同じ星の下で」。作品の中でもひときわ美しかったデュエットナンバーが響き渡った。

珠城に促されるように美園が残り、暁千星と風間柚乃が加わって三人での『ピカール狂騒曲』の「ラ・ベル・エポック・ド・パリ」が華やかに披露されると、一転舞台は芝居チックに。『幽霊刑事~サヨナラする、その前に~』から「世界最強のコンビ」を珠城と鳳月杏が掛け合いで歌い踊る。一転空気感が変わり鳳月が去ると珠城のソロ『月雲の皇子』の「花のうた」が。サヨナラショーのなかで、唯一トップ時代でない作品の楽曲を盛り込んだ、珠城の作品に対する愛しさが伝わってくる。

月城かなとが前述の退団者7名と共に『クルンテープ 天使の都』の「クルンテープ」を歌いながら行くと、サヨナラショーはいよいよクライマックスに。『All for One~ダルタニアンと太陽王~』から「この地上の何処かに」を珠城のソロで、更に月組生全員が加わり「明日を信じて」の大合唱へ。エンターティメントに徹しながら、人にとって大切なテーマを盛り込んでいた作品だったことが、この楽曲たちの歌詞からも伝わってくるようだ。客席に広がった青と白のペンライトの光の海が、その尊さをいや増しにした。

そして、珠城がおもむろにグラサンを取り出してのラストナンバーが『BADDY─悪党は月からやって来る─』の「BADDY」。常に誠実さを感じさせる珠城が、グラサンによって人が変わる弾けっぷりが楽しい。おりんのチーンという音でサヨナラショーの幕を下ろした紅ゆずるも画期的だったが、去り行くトップスターがグラサン姿でサヨナラショーの幕を下ろすことも、宝塚の歴史が次の100年を迎えても珠城りょう一人かも知れない。そんな思いがよぎりながらの、泣き笑いのサヨナラショーがついに終わりを告げた。

組長・光月るうが美園を含めた同時退団者の経歴を紹介して、退団者9名が緑の袴姿で大階段を下りる最後のセレモニーへ。それぞれの言葉で語る宝塚人生はそれぞれに重く、これからの道程に幸多かれと祈らずにはいられなかった。美園のトップ娘役の立場を全うするに欠かせなかった珠城と月組全員に寄せる感謝、そしてあくまでもトップスターとしての千秋楽挨拶をまず先に述べた珠城に、コロナ禍で舞台を務め続けてきた主演者が背負ったものが如何ばかりだったかを感じさせられた。そのなかで迎えられたまさにこれは奇跡の千秋楽。別れを惜しむカーテンコールがいつまでも続いた。

そんな舞台から会見場に場所を移し、むしろスッキリとした笑顔であらわれた珠城を迎えて、退団記者会見が行われた。

【珠城りょう挨拶】

皆様、本日はお忙しい中、そしてお足元の悪い中、このように多数お集まりくださいまして誠にありがとうございました。本日無事に宝塚を卒業することができました。それも今まで本当に温かく応援してくださいました皆様、そして導いてくださいましたたくさんの方々のご指導があってのことと心より感謝致しております。今日は短い時間ではございますが、皆様の質問にも色々とお答えできたらと思っておりますので、最後までどうぞよろしくお願い致します。

【質疑応答】

──すべての舞台を終えられて、改めていま珠城さんにとって宝塚はどんな場所でしたか?そして今後のご予定は?

宝塚人生は私にとって本当に全てでした。そして夢の世界でした。やっぱり宝塚の舞台に立っている瞬間は、自分も夢をみていたと思います。そのようなかけがえのない場所でした。退団後のことは全く決まっておりませんので、まずは職探しからはじめないといけないなと思うのですが(笑)、きっと外に出たら新しい出会いが待っていると思いますし、卒業されたたくさんのOGの方々が待っていてくださるので、またきっと素敵なご縁がつながっていくと思い、楽しみにしたいなと思います。

──素晴らしいサヨナラショーでしたが、サヨナラショーに込められた想いと、珠城さんが突き詰めてこられた男役の魅力を改めて教えてください。

サヨナラショーは自分にとって思い入れのある作品ということでも選んできたのですが、第一にファンの皆様が好きだった役や、好きな楽曲を中心に選んでいきました。また私は愛希れいかと美園さくらと、相手役が二人おりましたので、今回は美園と同時退団ということではありましたが、愛希の時代に応援してくださった皆様もたくさんいらっしゃいますので、どちらの時代を応援してくださった皆様も喜んでくださるような選曲にしたいと思い、楽曲を選んでいきました。そして私が思い描いてきた男役像は、情熱的で包容力があって男役らしい男役を追い求めてきましたので、今日輝月(ゆうま)がね、冗談で「世界の旦那」と言っておりましたが(笑)、包容力というところでは自分の男役像をひとつ確立することができたのではないかなと思います。また私はスーツと黒燕尾が大好きですので、それが似合う男役にはなれたかなと思っております。

──色々な場面があったと思いますが、珠城さんの目に一番焼き付いている景色は?

どの瞬間も非常に捨てがたいのですが、やはりパレードでの月組の皆の顔と、お客様の温かいまなざしが一番目に焼き付いています。

──月組の皆さんの顔をご覧になった時にはこみあげてくるものもおありでしたか?

意外と自分は冷静だったのですけれども、皆の顔をみて、寂しいとか悲しいとかいう感情ではなくて、愛おしさや感謝の気持ちがこみあげてきました。

──この一年半コロナ禍に非常に悩まされた期間で、ご自身も長期間のご自宅での待機や、公演が順延になり、退団時期もいまになったというところで、この間のご自身の心のコントロールと、またトップスターとして月組のためにどんなことを思われましたか?

いまこのような状況下になりまして、正直退団が延びたりですとか、一度公演がストップしてしまった時には、全世界の人が思ったことだと思いますが、いつになったら日常が戻ってくるのか?という不安は少なからずありました。でも誰のせいでもないことでしたので、今目の前にあること、例えば休止期間で、自宅で過ごすしかないのであれば、自宅でできる何か、トレーニングなり、普段なかなか目にすることのできないものに触れるなどして、常に心を動かしたりするようにしていました。目の前にあることにコツコツと向き合ってきましたね。月組の主演として約5年間務めさせていただいてきましたが、自分が心がけてきたことが、よりよい舞台を作る為に、皆が舞台に集中できる環境をどう作るか?ということで、それを一番に考えてきました。ですから自分自身の健康管理ですとか、精神面でもなるべく良い状態を保つようにして、組の皆が私の体調や精神状態でピリピリしてしまうのではなくて、皆が良い状態で楽しく舞台に、それぞれの役に向き合って行ける環境を作りたいと思って参りました。また私は比較的早い段階でトップに就任しましたので、下級生と上級生の橋渡しの役割ができたらいいなと思っておりましたので、トップという立場は特に関係なく、時間が許せばなるべく下級生にも声をかけるようにしたり、色々なコミュニケーションを取る場を作るように心がけていました。

──宝塚を退団されますと、女優や、男役でも活躍できる場が色々とあると思いますが、今日のような大きな羽根を背負うことは二度とないかと思いますが、東京公演を終えて最後の羽根を下ろされた時の気持ちは?

今振り返ってみますとこの5年間は、長いようで意外と短いあっという間だったと感じています。羽根を下した瞬間も「これを明日からは背負わないんだ」ということが不思議で、実感が湧きませんでした。それがいまの率直な気持ちです。

──組からのお花を月城かなとさんが渡された時に、大劇場の千秋楽では「宇宙一カッコイイ!」という言葉があったとお聞きしていますが、今日は何か別の言葉があったのでしょうか。

そうですね。違うことも言ってもらったのですが、これは最後なので二人だけの秘密にさせてください。

──いま、すべて終わられて月組の皆様に伝えたいことは?

ありがとうというひと言につきます。心からの感謝と愛ですね。

こうして8月15日に予定されていた全てのセレモニーは終了。既に東京宝塚劇場では、宙組公演の幕が開き、今後の予定を問われた珠城が「卒業されたたくさんのOGの方々が待っていてくださるので、またきっと素敵なご縁がつながっていくと思い、楽しみにしたいなと思います」と語ったのが、あの場で言える最大の表現だったのだとわかる、花組、月組誕生100周年を祝う祝祭公演『Greatest Moment』への珠城出演も発表され、時代は前へ前へと進んでいく。それでも誰よりも大きな背中で月組を率いた、宝塚の男役スターでありながら「普通の人」も演じられる、珠城りょうという大きな男役の思い出は、月組の歴史と共に残り続けるだろう。難しい時代が続くからこそ、ここで観られる夢の貴重さが身に染みる今、珠城りょう、美園さくらを含めた9人の退団者と、月城かなと&海乃美月率いる月組の未来双方に、幸せな道が続くことを祈っている。

【公演データ】
宝塚歌劇月組公演
ロマン・トラジック『桜嵐記』
作・演出◇上田久美子
スーパー・ファンタジー『Dream Chaser』
作・演出◇中村暁
出演◇珠城りょう 美園さくら ほか月組
●7/10~8/15◎東京宝塚劇場

 

【取材・文/橘涼香    写真提供/宝塚歌劇団】

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